能登で百余年の歴史を誇る名旅館『加賀屋』。多くのお客様を魅了し続ける所以は、お客様の満⾜を第⼀に考える⼼のこもった“おもてなし” のきめ細やかさにある。この加賀屋直営レストランの九州初出店となる、博多店の設計を担当。旅館の精神を引き継いだ空間するためには、ディテールへの⼼配りのある丁寧な思考の積み重ねが必要と考えた。

店舗区画は、先細り状に⻑い空間。そのため奥のゾーンには、窓があることを⽣かして太陽光が⼊る開放的な客席を設けた。結果、⼿前のゾーンには閉鎖的な空間が⽣れたため、個室や半個室といったプライベートな客席を設けることで区画の条件を効果的に活⽤した。また、施設の環境がグリーンを多⽤したものであったため、店内からの景⾊としても楽しめるよう計画している。

店内の各所に散りばめられた著名な作家による⼯芸品は、加賀の伝統を伝えるとともに気品を⾼める効果をもたらしてくれた。なかでも奥の客席を彩る藤⾊の織物にはさざ波状に加⼯を施し、壁から天井へ曲線を描き伸びてゆくその様⼦で、加賀屋本店の⽬の前に広がる海の、穏やかな景⾊を表現している。

『加賀屋』を愛するお客様が来店された時、空間とともに加賀屋伝統の料理を⼼より満⾜いただければ、とても嬉しく思う。