国内有数の繁華街で高級クラブがひしめく街、銀座。ファッション業界をリードしてきたIZA田中タキ代表の呼びかけで、クリエイティブな有志が集まり、銀座に高級クラブをつくるプロジェクトがスタートした。

店名は、アラベスク。オーナーが幼いころから慣れ親しんだピアノの、幻想的で装飾的な楽曲から名付けた。その言葉本来の意味は「アラビア風の装飾模様」。ここから派生して同名の楽曲が生まれており、規則正しいリズムが反復し、音が交差しながら徐々に変化していく構成となっている。このアラベスクの楽曲と装飾に込められた意味を、空間に重ねたいと考えた。

アラビア装飾の代表的モチーフであるアーチ型はシンメトリーであるため、繰り返したときに円弧の連続で規則的になり変化が出ない。そこで、アーチを半分で切り、ハーフアーチを考えた。するとアシンメトリーの連続となって規則的な構図から解放され、組み合わせ方が広がって変化を生み出すことが可能になる。

入り口の扉からアーチとハーフアーチが始まり、そしてレセプション、バー、ホールと展開し、楽曲のリズムをつくりだすかのように連動させた。最後に辿り着くホールはさらに自由度を高め、大きな変化を持たせることで華やかな印象をつくり出している。ハーフアーチは次への繋がりを予感させ、店内全体を繋ぐ効果も生み出した。また全てのテーブル天板には田辺ヒロシ氏によるイラストが描かれ、シート空間を華やかに満たし、ゲストをアーティスティックに刺激する。

オーナーが名付けた思い入れのある言葉からその由来を紐解き、連想させ、空間に浸透させた、今回の計画。コロナ禍で逆風を強いられた銀座の世界に一石を投じ、活気と新風を吹き込むことができたら嬉しく思う。